美味しい水が、日本一美しいそうめんを生み出す!?

古刹での滝行で心身ともに清められる

日本海に面する富山県へのアクセスは、都心部から向かうには少々時間のかかるものだった。それが長野新幹線を延長することで計画されていた北陸新幹線が開通してからというもの、2時間も乗っていれば気軽に行き来できる場所となって久しい。北陸地方というとどうしても海産物のイメージが強く、ズワイガニに代表される海の幸で知られている。

山に囲まれている地でもある富山県だが、そのなかの日本アルプスもまた、人々を魅了する大自然の宝庫といっていいだろう。標高の高い山々が連なり、厳しい冬には山頂は雪に覆われる。そして、春の雪解けと同時に、豊富な地下水となって平野部へと流れ込んでいくのだ。

6体の龍の口から流れ落ちる瀧は六本瀧と呼ばれ、六大(地、水、火、風、空、識)を型どった6つの蛇口から水を落とし、うたれる人々の六根(眼根、耳根、鼻根、舌根、身根、意根)を清浄にするという。一切の衆生の六欲、根本煩悩を洗いおとし、心身を清めて不動尊を参拝させる意味で造られているとのこと。

このような自然豊かな富山県の中新川郡に、大岩山日石寺はある。真言密宗の大本山で、約1300年の歴史を有する古刹だ。近年では週末の時間を利用したプチ修行が流行っているが、この日石寺では滝行が体験できる。

この日石寺は、国指定史跡「大岩日石寺石仏」、重要文化財「大岩日石寺磨崖仏」をはじめ、三重の塔、山門、六本滝など数々の寺院や名所があることでも知られている。これらを詣でる前に、滝修行で身を清める意味でも体験するのはいいかもしれない。

滝行は誰でも体験することが可能だが、予約が必要。透明度の高い清い水に打たれて、まずは自身の浄化を済ませて参拝したい。

これだけ澄み切った清い水だけに、その味も格別なことは確かだ。そして、この門前ではその水を使った、地元の人々が日本で一番美しいと評する「そうめん」が食べられることでも知られているのだ。



蚕の繭を彷彿させる純白の宝石

そうめん、白玉あずき、ところてんなどの料理がある大岩屋では、あらかじめ予約をしておけば、朝鮮人参のてんぷら、特製ゆば、特注がんもを食べることもできる。

そうめんといえば、兵庫県の揖保乃糸や奈良県の三輪そうめんが有名だが、この北陸の地でも、しかも国内でもっとも美しいと評判のそうめんがあるというのだ。門前はそうめんの激戦地らしく、たくさんの店が軒を並べている。そうしたなかで、今回はこの地でもっとも古い歴史を持つ大岩館を訪れた。大岩館は食事もできるが、古くから大岩で修行される宿坊として利用されている料理旅館だ。2009年に公開された「劔岳 点の記」のロケ地にもなった旅館で、地元の方のみならず、全国的にもその知名度は高い。

明治時代の創業で、今では参拝客だけでなく、観光目当てに立ち寄った人々の憩いの場所にもなっているようだ。趣のある、この老舗旅館で食べられるもっとも美しいそうめんとは、いったいどのようなものなのだろうか。


なかなか作っているところを見られないものではあるが、訪問時にはこのそうめんの盛り付けを見せてもらうことができた。さっとゆで上げたそうめんを、冷たく澄んだ水でキュッとしめ、それを手早く菜箸ですくいながら麺のならびをきれいに流れるように盛り付ける。何度か挑戦させていただいたが、これがなかなか難しい。そうめん目当ての客からの注文は途切れることなく、見せていただいている間にもどんどん運ばれていったのだが、そのどれもがしなやかな絹糸のように、キレイに整えられているのだ。

富山自慢の水でシメたそうめんが、菜箸でクルクルと整えられながら器にもられていく。麺というより美しい絹糸のような見た目に驚かされた。

ではさっそく、ここにそのそうめんの雄姿を公開しよう。

 

刻み葱とすり下ろした生姜のみで、さっぱりとツルっと食べると、美味しさも格別。

蚕の繭を彷彿させる、白い宝石のようなそうめん。昆布、煮干、カツオブシを使った出汁が、すっきりとした味わいを演出する。ほのかに香るカツオブシの風味が、食欲を猛烈にそそるのだ。添えられた具は、シンプルに刻み葱とおろし生姜のみ。ガッツリ派の人から見たら物足りなく感じるかもしれないのだが、この美しきそうめんの味をほかのもので汚さないためにも、この選択はベストといえる。なかには天ぷらや岩魚などをいっしょに注文される人もいるそうだが、「そうめんを楽しむ」という意味では、シンプルにこれだけ注文することをオススメする。気になる値段だが、そうめん小(550円)、そうめん大(650円)ととても手ごろな価格になっている。このほかにも同じそうめんを使った温かいにゅうめん(650円)もあるので、時期を問わずにこの純白な宝石に出会うことができる。

都心で暮らしていると地方へ出かけることも少ないのだが、より身近になった北陸・富山の地で、週末修行を体験しながらそうめんを食べれば、日本古来の風情を体験できることになるのかもしれない。