北陸グルメ漫遊記 激うまソースカツ丼編

ドイツ仕込みの日本人好みな味付けにご満悦

ヨーロッパの風情を醸し出す外観。メルヘンチックな西洋の城をイメージさせる(写真上)。店内には訪れた著名人のサインや様々な賞状が掲げられている(写真左下)。ボリューム―なソースカツ丼をプリントした商用車が、街のそこかしこを走る(写真右下)。

東京駅から約4時間半。2015年3月14日に石川県金沢駅まで開通した北陸新幹線から、特急しらさぎに乗り換えると、そこは北陸の港町「敦賀」。これまで、原発の街として知られてきたこの港町は、北陸屈指のグルメがあることでも知られている。今回はそのなかでも、他では味わえないといわれる「ソースカツ丼」と「越前ガニ」を目指してこの地を訪れた。朝から何も食べていない胃袋では、すでに空腹の虫が暴れている。これを何とかなだめつつ、まずランチはソースカツ丼にチャレンジすることにした。敦賀市屈指の名店「敦賀ヨーロッパ軒本店」にいざ!

このヨーロッパ軒は、福井市を中心として人気のあるソースカツ丼の店。店のルーツは1913(大正2)年11月28日。東京都早稲田鶴巻町(現在の新宿区)で開店と同時に話題を振りまいたという。ドイツでの料理修行を終えた創業者の高畠氏が創案したこの丼ぶり、揚げたてのカツをソースにくぐらせ白米と食べるというスタイルで、当時としては卵とじのカツ丼と一線を画していた。1923(大正12)年9月、関東大震災で混乱した関東を離れて福井へ凱旋。翌1924年に福井で開店した。そうした歴史ある名店の暖簾分け第一号店として、1939(昭和14)年に敦賀で開店したのがこの店だ。

一刻も早く、泣き叫ぶ胃袋を満足させたいときというのは、わずか10分ほどの時間すら惜しく感じるもの。まだか、まだかと首を長くしていると、「お待たせしました」というにこやかな笑顔とともにソースカツ丼がその雄姿を現した。

丼いっぱいに盛られたご飯の上には、揚げたばかりのジャンボトンカツが3枚も盛られている。

お腹と背中がくっつくほどの空腹状態で、ガッツリ飯のコンビネーションはまさに渡りに船。「いただきます」の挨拶すらろくにせず、ものも申さず食らいついた。ヨーロッパ軒の特徴のひとつに、揚げたてのカツを使用する、ということがある。カツ本来の美味しさを味わってもらうためには、揚げたてを提供するというこだわりがそうしているのだ。

サクッサクッっと口のなかで音を立てるカツには、揚げたてのサクサク感を活かすために、目の細かい特製のパン粉が使用されている。ラードヘッドで揚げてあるので、約1cmに薄くスライスされたロース・モモ肉の持つ豚の旨味が口中に広がる。食感と旨味のハーモニーは、もはや絶品というしかあるまい。そして何よりこの旨味を引き立てているのが、ウスターソースをベースに各種の香辛料を加えた秘伝のタレだ。日本人好みともいうべき酸味と、まろやかな甘みが広がるのだ。それでいて口に残るしつこさは微塵もない。これだけで満足な味わいなのだが、さらに仕掛けがしてあるのがヨーロッパ軒ならでは。熱々の白米にはもち米がブレンドされて、もっちりとした食感がカツと口のなかで絡み合うではないか。ご飯とおかずのコラボレーションが、この丼ひとつで再現されているのだ。まさに看板メニューといえるソースカツ丼だ。



いつもなら「これで満足!」となってしまうのだが、実はこのヨーロッパ軒にはもうひとつの看板メニューがあるという。創業者がヨーロッパで修行したことと、敦賀はかつてパリへ旅立つ窓口だったことにちなんで命名したとされるパリ丼だ。遠く日本海まで来て、これを喰らわず帰れるはずもない。腹八分目などという格言はどこへやら、さっそく追加注文することにした。待つこと約10分。そこには巨大なメンチカツが2枚ものせられた丼が運ばれてきたのだった。

大判のようなメンチカツが2枚のパリ丼。惣菜コーナーなどで見かけるメンチカツの2倍はあるキングサイズだ。

しかし、あれだけがっつり食べたソースカツ丼の後。少々美味しい程度では、その評価は厳しくなりかねない。やはり、日を改めて訪問すべきだったのか。ところがそんな危惧は徒労に終わった。落としそうになりながら巨大なメンチカツを食べた途端、もはや満面の笑みを浮かべるしかないのだ。そこらのメンチカツと一線を画している点。それはこのメンチカツ、肉汁が溢れんばかりにしたたるということだ。カツ同様サクっとしているのだが、口いっぱいに広がる肉汁と秘伝のタレが絶妙なハーモニーを生み出し、パリジェンヌもびっくりするようなご馳走なのだ。かつて日本の旅人たちはこの敦賀から大陸に渡り、シベリア鉄道でパリへと向かった。肉汁の溢れるメンチカツが口のなかで秘伝のタレと踊るたびに、当時のモダンな光景が脳裏を横切る。そんなロマンチックな逸品が、このバリ丼といえるだろう。大判のような黄金色のメンチカツは、まさに揚げ物の至宝ともいえそうだ。

第一ラウンドのランチは、全国のグルメが集まる東京からの訪問者といえどノックアウトされてしまう、揚げ物のほんとうの美味しさを体験することができた。

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